宇宙


21世紀の新エネルギー源 「宇宙太陽発電」 
― 人類文明飛躍のために ―
 
 

松本 紘

 
 豊かな循環型社会は実現できるか?

 資源、エネルギー、食糧などが地球上で有限のため、いずれ経済成長は止まるとローマクラブの警告が1972年。その翌年にオイルショックが襲い、トイレットペーパー騒ぎ、テレビ深夜放送の自粛、消えたネオンサイン。あれから四半世紀、節約は忘却のかなたへと消えさり、日本人の多くは21世紀にはもっと便利で豊かな生活が達成できると漠然と期待している。「安定した循環型社会の建設」という言葉がそれを象徴している。
 はたして安定した「循環型社会」は実現するであろうか? 発展途上国の急速な人口増加と生活水準の向上に伴い、世界全体の消費は指数関数的に上昇するのに、先進国のリサイクル努力などで達成される生産量の増加はほぼ直線的にしか上昇できない。先進諸国の生活水準を半分以下にし、人口増加を抑えなければ、循環型安定社会を支える資源・エネルギー・食糧の消費と生産(または再生)は決して平衡状態にはならない。更に消費型社会がもたらした「地球環境汚染」は大気汚染、海洋汚染、水資源汚染、オゾン層破壊、地球温暖化、森林破壊、砂漠化など、人間を含むあらゆる生物の生態系への脅威は悪化の一途を辿っている。このままだと地球が21世紀中に破産することは明らかで、安定した「循環型社会」は幻想に終わる。
 「地球に優しい」商品開発や「環境調査研究」は急速に悪化する人口爆発、食糧危機、資源枯渇、エネルギー源不足の前には焼け石に水である。事態ははるかに急速に深刻化している。悪化する環境の研究は病める地球、病める人間文明の「診断」に過ぎない。もっと「治療法」の研究、技術開発に研究開発費を振り向けるべきであり、「人類文明最大の難問」を科学技術の力で解決できなければ、21世紀中に、弱肉強食、資源・エネルギー・食糧争奪の暗黒時代が襲来し、愚かな戦争に走れば人類文明の滅亡も十分にありうる。

 根本解決法はあるか? ― 閉鎖地球系からの開放太陽系文明へ

 では、どうすればよいのか? 21世紀の科学技術はこの問題の根本的解決の方向に発展すべきである。地球の有限性を打破するには、「地球閉鎖系」から地球外の「宇宙開放系」に目を向けるしかない。宇宙空間といっても当面の千年位は太陽系空間をターゲットにすることになろう。人類は太陽系文明建設によって、安定した資源・エネルギー・食糧を入手できる。かけがいのない地球は未来のためにリザーブしておきたい。宇宙生活圏が実現し子孫が太陽系全体に広がっても、地球はオアシスとして残しておくべきである。宇宙開拓の本格化こそが逼塞する地球文明を救済する切り札である。その手始めに宇宙太陽発電所をまず建設し、地球にクリーンエネルギーを供給しながら太陽系文明への進出の足がかりとするのがベストと筆者は考える。

 宇宙太陽発電所 

 電気エネルギーの需要は先進国でもなお上昇中である。ところが発電量の増加は期待できない。化石燃料発電は酸性雨、温暖化ガス放出などのため、これ以上の増大は望めない。しかも、40年に迫った石油資源の枯渇限界も近づく。一方、原子力発電もその放射性物質の安全管理、放射性廃棄物の処理や立地問題などを抱え大幅な伸びは期待できない。地熱発電、風力発電、地上設置の太陽電池発電などの新型エネルギー源は大型の基幹エネルギー源にはなり得ない。そこでクリーンな大型基幹電力供給源となり得るものとして、宇宙太陽発電所(SPS)が1968年に米国のピーター・グレーザーによって提案された。
 宇宙太陽発電所は宇宙空間で超大型の太陽電池パネルを広げ、太陽光発電によって得られる電力をマイクロ波に変換して地球や宇宙都市の受電所に送電する。受電所ではレクテナと呼ばれる受電アンテナでマイクロ波から直流電力に戻す。百万キロワット級原子力発電所の10基分の電力を供給できる1000万kW級のSPSも可能である。
 マイクロ波送電の安全性はどうであろうか。SPSから送られてくるマイクロ波ビームの電力密度は、一番強いビーム中心で23mW/cu、レクテナの端で1mW/cu、レクテナ範囲外ではそれ以下の電力密度となっている。世界的にマイクロ波の照射安全レベルとされているのは1mW/cu以下であり、SPS構想では受電サイト以外の地域ではこの安全基準をクリアーするように設計される。マイクロ波ビームの中心を仮に飛行機や鳥、または作業員が数時間ビームの中にいたとしても焼き鳥や墜落ということはない。
これだけ巨大な太陽電池を宇宙に打ち上げて用いるメリットは発電効率がずっと高いからである。太陽電池に入射する太陽光エネルギー密度も、大気反射のため、地上の太陽光エネルギー密度に比べ宇宙でのそれは1.37kW/uと、1.4倍強い。また日照時間は宇宙では地上の4〜5倍あり、発電量を地上とSPSで比較すると5.5〜7倍の差がある。
 SPSの概念設計はNASA/DOEの他に、1991-1993年に通産省中心に行われた日本版SPSのシステムがある。両者はシステム設計だけでなく、社会波及効果や経済性にまで検討した。日本版SPSでは建設費用の総額は、2兆3570億円となっている。発電単価はSPSの寿命30年として23円程度/kWhとなっており、他の発電方式による発電単価(石油火力発電で約11円/kWh、原子力発電で約9円/kWh)と比べて2倍程度のコストで収まると試算されている。将来、資源不足や放射性廃棄物処理による発電コスト単価の上昇は容易に予想され、SPSは基幹電力源として十分競争力を持つ。
 米国のNASA(航空宇宙局)やDOE(エネルギー省)が1980年頃までSPS研究を続けたが、その後のレーガン政権で宇宙研究の目標を火星に変更してしまった。その代わり米国の研究に刺激を受けた日本の研究者が1980年代以降SPS研究をリードしてきた。われわれは1980年代からSPS技術の要となるマイクロ波送受電の研究に着手し、1983年には世界で最初のロケット実験(MINIX)を行い、宇宙プラズマの中でマイクロ波電力ビームを親ロケットから子ロケットに向けたマイクロ波送電実験に成功している。その後、マイクロ波エネルギービームを制御するレトロディレクティブ方式の送受電システムの開発、マイクロ波飛行機実験(MILAX)、地上定点間マイクロ波電力伝送実験などを成功させてきた。米国は日本の研究に刺激され、低コスト化(7円/kWh)を目指した新たなSPSプログラムを開始している。1997年から米国議会はNASAの要求額を大幅に上回るSPS研究予算をつけ始め、SPS研究が再び熱い視線を浴び始めている。日本が米国の先を進もうと思えば今決断するしかない。

 日本の決断 ―エネルギー小国から宇宙立国へ―

 世界中を循環または流動する食糧・資源・エネルギーが地球全体で供給不足とり、その流れが減速もしくは停止すれば、日本が真っ先に痛手をこうむる。しかし、世界各国も早晩、同じ運命を辿ることも明らかである。輸入に大きく頼る日本の凋落は、世界の凋落の先触れである。世界中も数十年遅れて物資・エネルギー・食糧の不足に直面するからである。皮肉にも日本はその意味で世界のさきがけとなる。このことを自覚すれば、日本人こそ、地球の有限性に起因するこの根本問題を真っ先に解決できる科学技術を推進すべきである。こうしてこそ、世界から信用され、頼られ、見捨照られずに食糧・資源・エネルギーの適正な配分を入手できるという安全保障を確保できるのではないだろうか。
 そのため日本人が、その繁栄を失わないためにもSPS建造事業に着手し、宇宙への進出の第一歩に貢献すべきである。太陽系生活圏には太陽というエネルギー工場があるため、次々とエネルギーが再生産されるし、資源は地球の50万倍以上存在する。日本は現在の宇宙技術、SPS技術の水準からいえばそのリーダーシップを取るチャンスがあり、また取らなければならない。日本はエネルギー小国という自らの弱点を理解し、宇宙立国となることでその存亡を計るべきではないだろうか。今がそのラストチャンスかもしれない。十年間に投資する総額3兆円弱のSPS建造費が、日本人の誇りを取り戻し明るい未来と希望を与えるとすれば、銀行に投入された公的資金投入7.5兆円と比べ高いか安いか、国民が判断すべきであろう。



宇宙太陽発電所(SPS)のイメージ図


    
    静止軌道上に超大型の太陽電池を展開し電気エネルギーを発生し、
マイクロ波電力に変換し、地球や宇宙都市や宇宙工場・農場へ電力伝送する。


≪1999.11≫


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