宇宙空間の基礎物理過程の研究
宇宙空間は、宇宙線に代表される高エネルギー放射線が飛び交う場であり、通信・放送衛星や宇宙基地を構成する材料や電子機器はこれらの放射線の影響を受けて、劣化や様々な障害を起こします。この宇宙放射線環境は、太陽活動の変化に起因する磁気嵐によって大きく変動し、有人宇宙活動及び宇宙機器に悪影響を及ぼします。さらに、極域オーロラ帯への降下粒子が増加して、超高層大気が加熱され大気抵抗が増大するため、低高度衛星の軌道にも深刻な影響を与えます。磁気嵐の発生に伴う宇宙環境の急激な変動への対策は、観測と経験に基づいてなされていますが、その詳細な物理過程の研究とそれに基づく定量的な評価は殆どなされていないのが現状です。本研究では、放射線帯高エネルギー電子の生成過程やオーロラ帯への降下粒子のフラックス変動過程等を計算機シミュレーション(計算機実験)によって再現し、宇宙空間の基礎的な物理過程を理論的に解明することに取り組んでいます。
オーロラ爆発の研究
オーロラは宇宙空間から降下する電子によっておこる大気の発光現象です。明るいオーロラが急拡大するオーロラ爆発と呼ばれる現象がおこると100万アンペア近くの電流が宇宙空間と地球の間を流れ、高さ100 km付近の電離圏では1000億ワットものエネルギーがジュール熱として消費されます。電気回路に例えると電離圏は負荷になりますが、電源に対応する領域や仕組みはよく分かっていません。また、明るいオーロラが光ると同時に電離圏の電気伝導度が上がり、宇宙空間にフィードバックすると考えられていますが、システム全体への影響やオーロラ構造との対応はよく分かっていません。中性大気との衝突を考慮したマクロとミクロのシミュレーションを組み合わせ、この問題に取り組みます。


磁気嵐の研究
地球近傍の宇宙空間は双極子型の地球固有磁場が卓越し、様々なエネルギーを持つ荷電粒子が蓄積しています。とくに太陽フレアで放出されたプラズマおよび磁場の塊が地球に到来するとプラズマの対流が促進され、数億から数十億度の高温プラズマ(keV帯粒子)が太陽の反対側から地球に向かって押し寄せます。環電流と呼ばれる反磁性電流が強まり、地球磁場を大きく乱します。これが磁気嵐です。地球磁場の乱れによって地面に電場が誘導されると、変圧器の中性点を介して電力網に準直流電流が流れます。地磁気誘導電流と呼ばれ、1989年にカナダで発生した長時間の停電の原因となりました。オーロラの記述がある国内外の歴史文献を調べると、過去には巨大磁気嵐が何度も起きていることがわかります。近い将来巨大磁気嵐が再び起こる可能性は否定できません。シミュレーションを用いて過去に発生した巨大磁気嵐の復元を試みるとともに、巨大磁気嵐の発生過程と送電網への影響を定量化します。


放射線帯の研究
地球磁場に捕捉されているほぼ光速で飛び交う荷電粒子(MeV帯粒子)の集合を放射線帯と呼びます。放射線帯粒子は人工衛星や宇宙飛行士の被ばくの原因となり、その理解と予測は喫緊の課題です。放射線帯は磁気嵐が始まると減少し、回復時に増加し、ときには磁気嵐前の量を大幅に超えるます。環電流を構成するkeV帯粒子とは全く異なり、大きな謎となっています。放射線帯の再生については高エネルギー粒子が外側から運ばれるという説と、比較的低エネルギーの電子がVLF帯の電磁波動によって加速されるという説があり、決着がついていません。太陽風から電子の加速に至る全ての過程を包含する大規模連結シミュレーションを開発し、放射線帯変動をシステムとして取り扱うことで歴史的難問に挑むとともに、予測可能なモデルの開発を目指します。

シミュレーション結果のギャラリー

